既存の制作会社から引き継ぐとき、契約前に確認すること
前の会社と揉めている状態で相談が来ることがあります。引き継ぎは可能ですが、確認しないまま始めると、見積の倍かかります。所有権、環境、そして引き継げないものについて。
前の制作会社との関係が良くない状態で相談が来ることが、定期的にあります。対応が遅い、費用の根拠がわからない、担当者が変わってから話が通らない。理由はいろいろです。
引き継ぎは可能です。ただし、確認しないまま始めると見積の倍かかります。増える分は作り直しではなく、何がどこにあるのかを調べる時間です。
契約前に確認していただきたいことを、優先順で書きます。
一番目:ドメインとアカウントの所有者
ここが最初です。他の何よりも先に確認してください。
ドメイン。 誰の名義で登録されているか。制作会社の名義になっているケースが実際にあります。この状態だと、移管に相手の協力が必要です。関係が悪化してからでは、時間がかかることがあります。
DNS。 どこで管理されているか。ドメインを持っていても、DNS が相手の管理下にあると切り替えができません。
サーバーとホスティング。 契約者が誰か。相手の契約に相乗りしている場合、こちらから移せません。
解析とドメイン認証。 Google Analytics、Search Console、広告アカウント。相手のアカウント配下にあると、過去のデータを持ち出せない場合があります。これは失うと戻りません。
順番として、この四つを確認する前に他の話をしないでください。技術的にどれだけ整っていても、ここが押さえられていないと作業を始められません。
そして関係が良好なうちに確認するほうが、圧倒的に簡単です。
二番目:ソースコードとデザインデータ
ソースコード。 手元にあるか。GitHub なら、貴社の組織アカウントの下にあるか。相手のアカウントにあるリポジトリは、権限を外された時点でアクセスできなくなります。
デザインの元データ。 Figma のファイル、あるいはそれ以前の形式。書き出した画像しかない場合、修正のたびに作り直しになります。
ビルドとデプロイの手順。 これがいちばん抜けます。コードがあっても、それをどうやって本番に出しているかが書かれていないと、最初のリリースまでに時間がかかります。
外部サービスの鍵。 決済、メール配信、地図、認証。契約と鍵が誰の管理下にあるか。
このうちどれかが欠けていても引き継げます。ただし調査の時間が発生します。見積に入れる必要があるので、事前に把握できていると金額が下がります。
三番目:契約の中身
保守契約の期限と解約条件。 何か月前に通知が必要か。自動更新かどうか。ここを確認せずに切り替えると、二重に払う期間が出ます。
著作権の帰属。 制作物の権利が誰にあるか。契約書に書かれていないことがあり、その場合は原則として制作した側に残ります。改変や再利用の可否に影響します。
CMS やテンプレートのライセンス。 有償テーマや有償プラグインが、相手のライセンスで動いている場合があります。切り替えと同時に止まります。
契約書を送っていただければ、この三点は確認できます。私は弁護士ではないので法的な判断はしませんが、技術的に何ができなくなるかは指摘できます。
引き継げないもの
正直に書きます。
なぜそうなっているかの理由。 コードは引き継げますが、判断は引き継げません。この処理がここにあるのは、三年前に特定の取引先の要望があったから、という種類の情報は、ほぼ確実に失われます。
これが引き継ぎの本当のコストです。触ると壊れる場所がどこかを、こちらは知りません。時間をかけて発見するか、壊して発見するかのどちらかになります。
運用の暗黙のルール。 毎月何日にこの作業をする、この項目は手で直している、といったこと。担当者の方が覚えていれば教えてください。それが最も価値のある引き継ぎ資料です。
だから、前の会社に対して悪い印象をお持ちであっても、引き継ぎ資料の作成は依頼する価値があります。数時間分の費用を払ってでも、判断の理由を文書にしてもらうほうが安く済みます。感情的には気が進まないと思いますが、金額としては明確に得です。
全部作り直すべきか
聞かれる質問なので書いておきます。
私の答えは、たいていの場合いいえです。
引き継ぎの相談が来る時点で、既存のものは動いています。問題があるとしても、動いているものには、動く理由が埋まっています。全部作り直すと、その理由を全部再発見することになります。
現実的な進め方はこうです。まず引き継いで、動く状態を維持する。その状態で一か月から二か月使い、どこが実際に問題かを見る。そのうえで、問題のある部分だけを作り直す。
最初の相談で「全部作り直しましょう」と言う会社には、理由を聞いてください。正当な理由がある場合もありますが、そのほうが売上が大きいから、という場合もあります。
前の会社に伝えるタイミング
これは私からは指定しません。貴社の判断です。
ただし、伝える前にアカウントの権限の確認だけは済ませておくことを勧めます。伝えた後で権限の話をすると、話が難しくなる場合があります。
権限の確認自体は、通常の管理業務です。伝える前に行っても不自然ではありません。
相談の段階でお願いしたいこと
引き継ぎの相談をいただく場合、この四つがわかると初回で具体的な話ができます。
ドメインの名義。ソースコードの場所。保守契約の解約条件。そして、現状で一番困っていることを一つ。
全部わからなくても構いません。わからないこと自体が、引き継ぎで最初にやるべき作業だと分かります。