免許証を撮影する本人確認が2027年4月に終わる前に、アプリで決めておくこと
犯罪収益移転防止法の施行規則が改正され、本人確認書類と顔を撮影して送る方法は2027年4月1日に廃止されます。残るのはICチップの読み取りと公的個人認証です。警察庁の資料をもとに、口座開設や本人確認の画面で今から決めておくことを書きます。
口座開設やウォレットのアプリで、運転免許証の表と裏を撮り、斜めから撮り、最後に顔を左右に動かして撮る。多くの人が一度は通った流れです。
この方法は、2027年4月1日で使えなくなります。
「eKYCの会社がSDKを差し替えてくれるので、うちは待っていればいい」という声も聞きます。半分は正しいと思います。読み取りの部品は外部の会社が更新してくれます。ただ、どの順番で何を頼み、うまくいかなかった人をどこへ逃がすかは、アプリ側が決めることです。そこで離脱が増えるかどうかが決まります。
私はデザイナーで、弁護士ではありません。自社が対象かどうか、どの方法を使うかは、必ず原文と専門家に確認してください。
何が変わるのか
警察庁は2025年6月24日に、犯罪収益移転防止法の施行規則を改正する命令を公布しました。施行は2027年4月1日です。警察庁の犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)には、理由として「精巧に偽変造された本人確認書類が悪用されている実態」が挙げられ、非対面の本人確認について次のように書かれています。
本人確認書類を撮影した画像情報の送信を受ける方法や本人確認書類の写しの送付を受ける方法を原則廃止する
同じ報告書の対照表を、オンラインの手続きに関係するところだけ抜き出すと、こうなります。
- 顔と本人確認書類を撮影して送る方法(いわゆるホ方式)は廃止
- 顔を撮影し、本人確認書類のICチップの情報を送る方法は存続
- 本人確認書類の画像と銀行口座の照会を組み合わせる方法は、画像の部分が廃止され、ICチップの読み取りに置き換え
- 本人確認書類の写しを郵送してもらう方法は廃止
- マイナンバーカードの公的個人認証(JPKI)は存続
報告書には、2025年6月13日に閣議決定された重点計画の抜粋も載っています。非対面の本人確認は「マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化」する方針です。対面の本人確認でも、2026年3月6日の別の改正で、ICチップの読み取りが原則になりました。施行日は同じ2027年4月1日です。
対象は、犯罪収益移転防止法で取引時の確認が義務になっている事業者です。銀行、資金移動業者、暗号資産交換業者、クレジットカード事業者などが含まれます。対象外の会社でも、同じeKYCの仕組みを年齢確認などに使っている場合は、取引先の対応方針を聞いておいたほうが安全です。
画面の上で起きること
撮影からICチップの読み取りに変わると、ユーザーの操作がまったく違うものになります。
撮影は、カメラに向けるだけでした。ICチップの読み取りは、スマートフォンの背面をカードに重ねて、数秒間動かさずに待つ操作です。読み取り位置は機種ごとに違い、多くの人は自分のスマートフォンのどこにアンテナがあるかを知りません。カードがずれると、最初からやり直しになります。
さらに、暗証番号が要ります。マイナンバーカードの公的個人認証では、英数字6文字から16文字の署名用のパスワードを入れます。運転免許証のICチップにも暗証番号があります。どちらも発行のときに一度設定して、それきり忘れている人が少なくありません。
撮影の手順で離脱していた人とは、違う場所で、違う理由で離脱する人が出てきます。今の離脱率の数字は、そのままでは参考になりません。
今から決めておくこと
1. 何を最初に勧めるか。 マイナンバーカード、運転免許証、在留カード。どれを最初に提示するかで、暗証番号を覚えている人の割合が変わります。自社のユーザーが何を持っていて、何の暗証番号なら覚えていそうかを、先に調べておく価値があります。
2. スマートフォンにカードを入れた人をどうするか。 デジタル庁は2025年6月24日にiPhoneのマイナンバーカードの提供を始めました。改正後の規則にも、スマートフォンに入れた記録を使う方法が残っています。カードを持ち歩かない人が増えるほど、この経路の重要性は上がります。
3. 読めなかった人をどこへ逃がすか。 NFCに対応したスマートフォンやICカードを持っていない人のために、偽造防止の加工がされた住民票の写しなどの原本を郵送してもらい、取引に関する書類を転送不要郵便で送り返す方法が残っています。警察庁のQ&Aでは、ICチップ付きの書類を持たない人でも非対面で確認できるように残した方法だと説明されています。画面のどこかに、この道をきちんと用意しておく必要があります。行き止まりの画面は、そのまま問い合わせになります。
4. 外国籍のユーザーの住所をどう扱うか。 在留カードは、住所を変更すると裏面に新しい住所が書かれますが、ICチップの住所は変わりません。同じQ&Aでは、裏面の画像では確認したことにならず、現在の住所を別に確認する必要があるとしています。外国籍のユーザーが多いサービスでは、ここで一つ手順が増えます。
5. 既存のユーザーをどうするか。 同じQ&Aによると、施行前に廃止される方法で確認を済ませた口座について、施行後に確認をやり直すことは求められていません。全員に再提出をお願いする画面を作る必要は、規則の上ではありません。
外部のSDKに任せられないこと
読み取りの部品はeKYCの会社が用意します。けれども、その前後の画面はアプリのものです。
読み取りの前に、何を用意してもらうかを伝える画面。暗証番号を忘れた人に、どこで再設定できるかを伝える画面。読み取りに3回失敗した人に、別の方法を案内する画面。そして、問い合わせ窓口が同じ説明をできるようにするためのヘルプページ。
どれも、SDKの更新が届いてから作り始めると間に合いません。施行の数か月前には、実際のカードと複数の機種で、社内の人に一通り試してもらうのが安全です。
最初の打ち合わせで
本人確認の画面を見直す場合、最初の打ち合わせでは三つを教えてください。今どの方法で本人確認をしているか。手順ごとの離脱率が取れているか。そして、ユーザーのうち外国籍の方や高齢の方がどのくらいいるかです。
この三つがわかれば、新しい流れのどこで人が止まりそうかを、施行の前に洗い出せます。