AI で画面が作れる時代に、デザイナーはまだ必要か
画面や試作は数秒で出てくるようになりました。それでも社外に頼む価値が残っているのは、作る工程ではなく、決める工程です。発注する側が何を見て選べばいいかを書きます。
一緒に仕事をしているエンジニアが、冗談半分で「デザイナーはもう要らなくなる」と言いました。理屈は分かります。AI に指示すれば画面も導線も数秒で出てくる。絵を描いて渡すだけの役割なら、確かに残りません。
ただ、発注する側にとって重要なのはその先です。何が安くなって、何が安くなっていないのか。ここを取り違えると、発注先の選び方を間違えます。
安くなったのは「作ること」
試作は劇的に安くなりました。以前は一週間かかっていた画面が、半日で動く形になります。「とりあえず見てみたい」に対応する費用は、もう交渉材料になりません。
ですので、画面を作る工数だけで比較すると、どの見積もりも似た金額に寄っていきます。見積もりを比べる意味が薄くなった、と言ってもいいです。
安くなっていないのは「決めること」
安くなっていないのは、プロダクトの真ん中にある部分です。データがまだ無いときの画面。エラーが出たときの言い方。解約しようとしている人への画面。お金を払ってもらう瞬間。そして AI プロダクトなら、モデルが自信を持てないときに何を表示するか。
この部分は、社内でも社外でも、誰の担当にもなっていないことが多いです。そして信頼が壊れるのは、いつもここです。役員に見せる画面では壊れません。
15 案から 12 案を捨てられる人がいるか
いまは誰でも画面を 15 案出せます。難しいのはそこではありません。
そのうち 3 案は、社内の合意形成が必要な日本のユーザーには機能しない。1 案は数字が伸びる。1 案は、システムが間違えた最初の一回で信頼を失う。これを理由つきで言えるかどうかが、実際の差です。
この判断は、作業時間では見積もれません。過去に何を壊したことがあるか、でしか判断できない部分です。
自分のプロダクトで起きたこと
自分で作っているアプリの有料導線が、なかなか伸びない時期がありました。画面は整っていました。余白も文字組みも問題ない。
ある晩、実際の利用者と同じ状態で自分の携帯から開いて、やっと分かりました。まだ何の価値も渡していない段階で、お金の話を切り出していました。調査ではなく、四秒で分かる感覚の話です。
その日のうちに、聞く順番を変えて出し直しました。数字は上がりました。重要なのは、気づいた人がその日のうちに直せたことです。仕様書と会議を経由していたら、この修正は来月になり、たぶん実行されませんでした。
面談で聞いてみるとよいこと
作ったものではなく、捨てたものを聞いてください。過去の案件で何を作らないと決めたか、その理由は何だったか。ここで具体的な話が出てこない場合、判断ではなく作業を担当してきた人です。
もう一つは、うまくいかなかったときの話です。エラー、空、解約、通信が切れた状態。この四つをどう扱ったかを聞くと、真ん中の部分を担当した経験があるかどうかがすぐ分かります。
肩書きではなく、動詞で選ぶ
AI プロダクトを作っているチームでは、職種の境界がすでに溶けています。デザイナー、エンジニア、プロダクトマネージャーという区分より、いま何ができる人なのかで見たほうが正確です。
作っては捨てる試作。production に耐える実装。散らかったものを整理して、出すべきでなかったものを削る作業。すでに動いているものを、お金を払ってもらえる形まで伸ばす仕事。長く安全に動かし続ける運用。
発注するときは、この五つのうち、いま自社に足りないのはどれかを先に決めてください。ゼロから立ち上げる段階と、すでに走っているものを直す段階では、来てもらうべき人が違います。肩書きが同じでも、得意な動詞は違います。
日本では、平凡さが目立つ
日本の市場は、品質が差別化要因ではなく前提です。だから中途半端なものはすぐ分かるし、誰も指摘してくれません。黙って使われなくなります。
作る費用が下がった結果、世の中に出てくる量は増えます。量が増えるほど、感覚の部分が効きます。
まとめ
デザイナーが要らなくなったのではなく、絵を描いて渡すだけの役割が要らなくなりました。残っているのは、何を作らないかを決める仕事と、システムが間違えたときにどう見えるかを決める仕事です。
外部に頼む価値があるのも、いまはそちらです。画面の枚数で見積もりを比べているなら、比べる場所がずれています。