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JIS X 8341-3 の改正に、いま何を準備しておくか

ウェブアクセシビリティの JIS が WCAG 2.2 相当へ改正される見込みです。達成基準は26個増え、レベルAA だけで11個。公的機関の調査では、把握して動いている団体は21.7%でした。今できることを順に書きます。

日本のウェブアクセシビリティ規格 JIS X 8341-3 は、改正の作業が進んでいます。

2025年9月に国際規格 ISO/IEC 40500 が改正され、これを受けて2025年10月30日、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)が改正原案作成委員会を発足させました。方針として共有されているのは、ISO/IEC 40500:2025 との一致規格にすることです。

実務的に何を意味するかというと、現行の JIS が技術的に WCAG 2.0 相当なのに対し、改正後は WCAG 2.2 相当になる、ということです。

増えるのは26個、そのうちレベルAAが11個

WAIC が公開している改正概要の資料に、追加される達成基準の内訳が載っています。

  • WCAG 2.1 から:レベルA 5個、レベルAA 7個、レベルAAA 5個
  • WCAG 2.2 から:レベルA 2個、レベルAA 4個、レベルAAA 3個
  • 合計:レベルA 7個、レベルAA 11個、レベルAAA 8個

加えて、WCAG 2.2 で達成基準 4.1.1「構文解析」が削除されています。

注目すべきはレベルAAの11個です。日本の公共調達やアクセシビリティ方針が参照するのは、通常このレベルAAだからです。現行 JIS に準拠している自社サイトが、改正後も自動的に準拠しているとは限りません。

追加されるレベルAAの内容は、リフロー、文字間隔、テキスト以外のコントラスト、フォーカスが隠れないこと、ドラッグ操作に代わる手段、ターゲットサイズの最小値などです。レベルAAには他に、画面の向き、入力目的の特定、ホバーやフォーカスで表示されるコンテンツ、ステータスメッセージも含まれます。レベルAの側には、ヘルプの位置を一貫させること、一度入力した情報を再入力させないことが入っています。

専門的な項目ではありません。ごく普通のインターフェース設計の話です。

公的機関の準備状況

総務省が毎年実施している調査の、2026年3月公表分を見ると準備の実態がわかります。2,092団体に依頼し、1,058団体から回答、回答率50.6%です。

改正が見込まれることを把握して取組を行っている団体は、21.7%。

把握しているが取組は行っていないが44.9%、把握していなかったが33.4%でした。合わせて78.3%が、これを不意打ちか駆け込みで迎えることになります。

同じ調査の他の数字も参考になります。ウェブアクセシビリティの確保に「取り組んでいる」と答えた団体は84.9%。一方、アクセシビリティ方針を策定・公開しているのは52.1%、JIS X 8341-3:2016 に基づく試験を実施しているのは56.8%、取組確認・評価表の結果を公表しているのは14.6%です。

「取り組んでいる」という一語の中に、4通りの意味が入っています。企業でも同じです。

民間企業に関係あるのか

法的な義務としては、直接には関係ありません。障害者差別解消法が民間事業者に求めているのは合理的配慮であって、特定の適合レベルではありません。

ただ、規格は移動します。

公共調達が改正 JIS を要求するようになり、官公庁案件を持つ制作会社がそれに合わせて作るようになり、国内の CMS 製品がそれに追随し、数年後には「まともな日本のウェブ案件」の既定値になります。実際、今回の改正では附属書JAが公的機関だけでなく民間での利用も想定した構成に整理される、と WAIC の資料に明記されています。

そしてもうひとつ、欧州アクセシビリティ法(EAA)が2025年6月から適用されています。EU に製品やサービスを提供している日本企業にとっては、こちらは既に要件です。参照している技術基準は、同じ WCAG の達成基準です。

別々のコンプライアンス案件として二回対応することもできます。同じ技術規格に収束していることに気づいて、一回で済ませることもできます。

いま、順番にやること

改正はまだ公示されていません。委員会は作業中です。つまり今は、義務でもなく遅れてもいない状態で準備できる、いちばん安い期間です。

WAIC の資料も、JIS X 8341-3:2016 への準拠が基礎であり、WCAG 2.1・2.2 で追加された達成基準(特にレベルA、AA)については先取りして対応することも可能だ、と書いています。あわせて、計画の策定と予算・工数の確保が必要だとも書いています。この後半を飛ばす組織が多いと思います。

順番はこうです。

  1. 現行の JIS 試験を一度も実施していないなら、まず実施する。 公的機関でも43.2%が未実施です。これをやるまでは、あとは全部推測になります。
  2. 追加されるレベルA・AAの基準を、手作業で自社サイトに当ててみる。 自動チェックツールで拾えるのは一部です。フォーカスの見え方やターゲットサイズは、実機で触らないとわかりません。
  3. 次の発注契約に要件として入れる。 リリース後の改修プロジェクトとしてではなく、仕様として。後追いの方が高くつきますし、ほぼ全員が後追いを選びます。
  4. 結果を公表する。 公表しているのは14.6%です。部分適合を認めた公開評価の方が、誰も検証していない準拠宣言より価値があります。

予算が通らない、という話について

総務省の調査で、取り組んでいない団体に理由を聞いた結果が示唆的です。人員や予算が限られていて十分な投資ができないが65.6%、専門知識や経験を持つ人員がいないが59.4%。

「やる価値がない」と答えた選択肢は、実質的に存在しません。

つまり、説得は足りています。足りていないのは、担当者が社内で予算を取るための材料です。同じ調査で、運用ガイドラインの役立った点として最も多かったのが「取組の必要性、法的根拠などが説明されている」で76.2%でした。

議論に勝つための弾薬が求められている、ということです。改正 JIS は、その弾薬としては今後数年でいちばん強いものになります。期限のある外部要件ほど、社内の優先順位を動かすものはありません。

関連して、アクセシビリティ対応はどこまでやるべきかEU 向けの要件も書いています。

出典

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