デザイン責任者が経営会議にいない会社が、明日からできること
経産省・特許庁の「デザイン経営」宣言は、デザイン経営と呼ぶための必要条件を二つ挙げています。片方は役員人事なので、すぐには動かせません。もう片方は会議の順番の話で、こちらは来週から変えられます。
2018年5月、経済産業省と特許庁が「デザイン経営」宣言という報告書を出しました。日本企業はデザインを経営資源として扱うべきだ、という提言です。
私がこの資料で一番よく引用するのは、本文ではなく 1 ページ目の脚注です。
経産省が従業員 100 人超の製造業すべて、25,000 社を対象に行った調査から引かれています。市場開拓に成功した要因を聞いた設問で、国内市場について「高品質・高機能」を挙げた企業が 38.3% だったのに対し、「デザイン」は 0.8% でした。米国市場については、高品質・高機能が 63.6%、デザインは 0.0% です。
四捨五入で消えた数字ではありません。25,000 社に送った調査で、米国での成功要因としてデザインを選んだ企業が事実上いなかった、ということです。
その数字が測っているもの
「日本の経営者はデザインを軽視している」という読み方をされがちですが、私はそうは思いません。日本企業ほど作り込みに執着する組織を私は他に知りません。包装、店舗、説明書、箱を開けたときの手触り。この国で何かを買ったことがある人なら、経営がそこに無関心だとは思わないはずです。
あの数字が測っているのは、もっと限定的で、もっと直せるものです。回答者が記入したとき、「デザイン」という言葉が社内で何を指していたか。それを測っています。
デザインが完成物の見た目のことなら、当然それは最後に来ます。見た目を決める段階では、お金のかかる決定はすべて済んでいるからです。そして設問は市場開拓、つまり事業成果を聞いていました。社内でデザインが事業成果の近くに行ったことがないなら、成果要因ではないと答えるのは誤りではありません。組織の実態を正確に報告しているだけです。
宣言が挙げた二つの必要条件
報告書で一番使える部分は、一番短い部分です。デザイン経営と呼ぶための必要条件として、次の二つが挙げられています。
- 経営チームにデザイン責任者がいること
- 事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること
現実的な話をします。一つ目は役員人事です。ほとんどの会社は、この記事を読んだ翌週に CDO のポストを新設しません。そこを条件にしてしまうと、話はそこで終わります。
二つ目は、会議の順番の話です。予算がいくらあるかも、組織図がどうなっているかも関係ありません。だから、まずこちらから動かします。
私がレビューを頼まれて失敗していたデザイン案件は、ほぼすべて二つ目で失敗していました。能力でも予算でも趣味の問題でもありません。成果物は正しく、影響を与えるはずだった決定がすでに終わった後に届いていた、というだけです。
一回の会議から始める
やり方は拍子抜けするほど簡単です。
次にロードマップに乗るプロジェクトを一つ選び、予算を書く前に一つだけ問いを挟みます。これは誰のためのもので、これができたらその人は何を今までと違うやり方でやるようになるのか。
ワークショップにはしません。一回の会議で十分です。条件は二つだけ。予算を承認する人がその部屋にいること。そして終わったときに、全員が見た状態で答えが文章になっていること。
誰も答えられなければ、それはそれで収穫です。その状態で始めていたら、デザイン費用より高いものを失っていました。
そして、その一文をプロジェクトが終わるまで見える場所に置いておきます。開始から半年後のスコープの揉め事は、たいていスコープの話ではありません。最初の問いに合意していなかった二人が、遅い段階で、大きな声でそれに気づいているだけです。
かかるのは午前中の数時間です。そしてこれは、2018年の政策文書に書かれている二つ目の必要条件とほぼ同じ内容です。障壁は理解の難しさではなかった、ということだと思います。
投資対効果として何が言われているか
宣言は、期待できるリターンについて海外の調査を引いています。経営に説明する必要があるときに使えるので、出典ごと書いておきます。
英国 Design Council の 2012 年の報告では、デザインに £1 投資すると営業利益が £4、売上が £20、輸出額が £5 増えるとされています。Design Management Institute の Design Value Index では、デザインを重視する企業の株価が S&P 500 全体と比べて 10 年間で 2.1 倍成長したとされています。Design Council の別の調査では、デザイン賞に多く登場する英国上場企業 166 社の株価が、10 年間で FTSE 指数のおよそ 2 倍で推移したと報告されています。
いずれも海外の数字で、日本企業にそのまま当てはまるとは限りません。ただ、これは 2018 年に日本の経営者に対して提示された材料です。
2025年時点で変わったこと、変わっていないこと
変わったことはあります。経産省と IPA が定めるデジタルスキル標準では、DX を推進する人材類型が五つ定義されていて、そのうちの一つが「デザイナー(サービス、UX/UI、グラフィック)」です。国の公式な立場としては、デザインは装飾ではなく、DX に必要な職種として名指しされています。
一方で、同じ IPA のDX動向2025を読むと、日本で最も不足している人材類型は「ビジネスアーキテクト」です。米国とドイツはデータサイエンティストでした。ビジネスアーキテクトは、目的設定から導入、効果検証までを、関係者を調整しながら一気通貫で担う人材と定義されています。つまり、何を作るべきかを決めて、それが効いたかどうかまで見届ける人です。
そして、DX を推進する人材の「質」について「過不足はない」と答えた日本企業は 3.8% でした。米国は 52.9%、ドイツは 25.1% です。
3.8% は、スキル不足というより要件定義の不在です。必要な人物像を書けない会社は、採用も育成も依頼もできません。
まとめ
デザイン責任者を役員に置けるなら、置いたほうがいいです。ただ、それができるまで何もできないわけではありません。
必要条件の二つ目、つまり決定の一つ手前にデザインを入れることは、組織図を変えずに実行できます。順番を変えるだけです。そして私の経験では、成果の差の大半はそこで決まっています。
参考
- 経済産業省・特許庁 産業競争力とデザインを考える研究会 「デザイン経営」宣言(2018年5月23日)。38.3% / 0.8% および 63.6% / 0.0% は 1 ページ目の脚注 1、投資対効果は 5 節、必要条件は 6 節
- 特許庁 デザイン経営の推進
- IPA DX動向2025、本文 PDF(図表 3-2、3-3、3-4)