新規事業の最初の形は、アプリか、Webか、LINEミニアプリか
スマートフォンを持つ世帯は91.8%、LINEの国内月間利用者は1億を超えました。新規事業で最初にネイティブアプリを作るか、Webで始めるか、LINEミニアプリにするか。どのくらいの頻度で使われるかと、最初のユーザーがどこから来るかの二つで決める方法を書きます。
新規事業の担当の方から、「アプリを作りたい」という相談を受けることがよくあります。話を聞いていくと、アプリは手段で、本当に決めたいのは「お客さんとの接点をどこに置くか」であることがほとんどです。
アプリにするか、Webにするか、LINEミニアプリにするか。私はこの判断を、二つの質問で決めています。どのくらいの頻度で使われるのか。最初のユーザーはどこから来るのか。
自分でも iPhone のアプリ、Mac のアプリ、Webのサービスを作って公開してきました。その経験から、三つの形の向き不向きを書きます。
前提の数字
総務省の令和7年通信利用動向調査(2026年5月公表)によると、スマートフォンを持っている世帯は91.8%、個人では78.9%です。調査結果の資料では、インターネットの利用目的としてSNSの利用がもっとも多くなっています。
LINEヤフーは2026年1月、LINEの国内月間利用者数が2025年12月末時点で1億を超えたと発表しました。スマートフォンのLINEを月に一度でも起動したアカウントの数です。
この二つから言えるのは、日本の消費者向けの事業なら、相手はほぼ確実にスマートフォンを持っていて、その多くがLINEを開いている、ということです。問題は、その中で自社のサービスがどの位置に入るかです。
一つ目の質問:どのくらいの頻度で使われるか
毎日、少なくとも毎週使われるサービスなら、ネイティブアプリにする価値があります。ホーム画面にアイコンがあり、通知が届き、開けばすぐに使える。この便利さは、使う回数が多いほど効いてきます。
月に一度、あるいは年に数回しか使わないサービスなら、Webで十分です。年に二回しか開かないアプリのために、容量を使い、アップデートを受け、ログインを覚えてもらうのは、ユーザーにとって負担のほうが大きくなります。
その間にあるのが、来店、予約、会員証、スタンプカードのような使われ方です。使う場面ははっきりしているけれど、毎日ではない。ここはLINEミニアプリがいちばん合う場所だと考えています。
二つ目の質問:最初のユーザーはどこから来るか
アプリのダウンロードは、それ自体が一つの関門です。App Store のページを開き、入手を押し、待って、開いて、ログインする。手順が一つ増えるたびに、途中でやめる人が出ます。
だから、最初のユーザーが来る入口で形を選びます。
- 店舗やイベントでQRコードを読んでもらうなら、LINEミニアプリかWeb
- SNSの広告や記事から来てもらうなら、Webのページ
- App Store で検索して見つけてもらうなら、アプリ
店頭のQRコードからいきなりアプリのダウンロードを求めると、その場で閉じられることが多いと思います。
LINEミニアプリの、良いところと注意するところ
LINEの公式ドキュメントにあるとおり、LINEミニアプリはインストールなしで使えます。決済やサービスメッセージ(ユーザーへのお知らせ)も追加できます。
注意したいのは、認証の有無で使える機能が違うことです。認証審査を通っていない「未認証ミニアプリ」は誰でも作れますが、ヘッダーにはタイトルとドメイン名が出て、一部の機能が制限されます。ホーム画面にショートカットを追加する機能などは、審査を通った「認証済ミニアプリ」で使えるものです。スケジュールを組むときは、審査の期間を見込んでおく必要があります。
もう一つは、LINEを使っていない相手には届かないことです。海外のユーザーや、会社のPCで使う業務向けのサービスなら、LINEは入口になりにくい。消費者向けで、国内で、店舗やイベントと結びついている事業ほど向いています。
ネイティブアプリにする理由がある場合
頻度とは別に、アプリでないと作れない機能があります。
- カメラやBluetoothで、端末の機能を深く使う
- 画面を閉じている間も動き続ける処理がある
- ウィジェットやヘルスケアのデータと連携する
- 端末の中でAIのモデルを動かしたい
逆に、通知のためだけにアプリを作る必要は、以前より小さくなっています。iPhone でも iOS 16.4 から、ホーム画面に追加したWebアプリでプッシュ通知を受け取れるようになりました(WebKitの発表)。ただ、ホーム画面に追加してもらう手順そのものが一般のユーザーには分かりにくいので、通知が事業の中心ならアプリのほうが確実です。
公開したあとにかかる手間も比べる
形を選ぶとき、作るまでの費用は比べても、公開したあとの手間は比べられていないことが多いです。
ネイティブアプリは、ストアの審査を通らないと公開も更新もできません。小さな文言の修正でも、新しいバージョンを作って提出することになります。iOS と Android の両方に出すなら、その作業は二つです。毎年の OS の更新に合わせた確認と修正も続きます。
Webなら、修正はその日のうちに全員に届きます。LINEミニアプリも中身はWebなので、更新の速さはWebに近くなります。
新規事業の最初の数か月は、画面も文言も頻繁に変わります。変える回数が多い時期ほど、更新の速い形が有利です。
後から移れるように作る
どの形で始めても、後から変えられるようにしておくのが一番の保険です。
具体的には、データと処理をサーバー側にまとめ、画面だけを差し替えられるようにします。WebかLINEミニアプリで始め、週に何度も戻ってくるユーザーが一定数いると分かってから、アプリを作る。この順番なら、アプリの開発費を使う前に、本当に毎週使われるサービスなのかを確かめられます。
最初に見るべき数字は、一週間後、一か月後にもう一度使った人の割合です。ダウンロード数や登録数は、その次で構いません。これが低いうちにアプリを作っても、ホーム画面のアイコンが一つ増えるだけです。
最初の打ち合わせで
新規事業の形を決めかねている場合、最初の打ち合わせでは三つを教えてください。ユーザーにどのくらいの頻度で使ってほしいか。最初のユーザーをどこから連れてくる予定か。そして、カメラや位置情報など、端末の機能を使う予定があるかです。
この三つで、たいていは最初の形が決まります。