オンライン申請が最後まで終わらない理由
デジタル庁が国の行政手続7万5千種類を調査した結果に、申請フォームが完了しない理由がそのまま出ています。決済がオフライン、添付書類が紙、そして「オンライン化」の4割はメール。自社のフォームでも同じことが起きています。
申請フォームの離脱を調べると、原因はたいてい入力欄そのものではありません。
デジタル庁が2025年7月に公表した調査結果を読むと、それが国家規模で確認できます。国の行政手続、全7万5,085種類を対象にした調査です。民間企業のフォーム設計にそのまま使える発見が3つありました。
1. 決済がオフラインだと、申請もオフラインに戻る
手数料の納付が必要な手続のうち、手続種類数では61.9%がオフラインのみの納付でした。年間件数ベースでは5割弱です。件数の多い手続から先に対応されているので、この差が出ます。
つまり、申請は画面上で完結するのに、支払いは銀行の窓口か ATM に行く、という手続がまだ多数あります。
デジタル庁の考察がそのまま書いています。手続自体は電子申請が可能でも、手数料納付がオフラインだと利便性が下がり、紙による申請が続く要因となりうる、と。さらに、行政側でも申請と入金の突合が手作業のままだと電子申請のメリットを感じにくい、とも書いています。
利用者側と提供者側の両方で、最後の一歩が全体を引き戻しています。
民間でも同じ構図をよく見ます。申請や登録のフローには2四半期かけて、決済のところは既存の経理システムのやり方をそのまま残す。フローは最後の一歩の完成度までしか完成していません。そして最後の一歩は、たいてい金銭が動くところです。
2. 紙の原本が1枚あると、全部が紙になる
同じ調査で、どの添付書類を求める手続がどれくらいオンライン化されているかが出ています。
- 戸籍を求める手続:オンライン化率 39.3%
- 住民票:55.8%
- 登記事項証明書(商業):69.2%
- 決算書:77.4%
戸籍と決算書で、38ポイントの差があります。
重要度や機微性の差ではありません。片方は市区町村の窓口で取ってくる紙の証明書で、もう片方はすでに誰かのパソコンの中にあるファイルだ、という違いです。
フローのどこか1箇所で紙の原本を要求した時点で、そのフロー全体が紙になります。画面がどれだけよくできていても関係ありません。
日本の対応策は、いま進んでいるベース・レジストリの整備です。法人登記簿は令和7年度末以降、不動産登記簿は令和9年度以降、行政機関側が情報を取得できるようになり、順次、提出が省略可能になる見込みです。申請者に書類を運ばせるのをやめる、という正しい方向の対策で、地味で、時間がかかり、どんな画面のリニューアルよりも効果があります。
自社のフォームで同じ点検ができます。ユーザーに「持ってきて」と求めている情報のうち、自社がすでに持っているもの、または API で取得できるものは何か。だいたい、思っているより多いはずです。
3. 「オンライン化」の4割はメールだった
これが個人的にいちばん効いた発見です。
オンライン化されている手続のうち、約6割は府省システムを通じて行われ、約4割はメールで行われています。
メールはファックスよりも、窓口まで行くよりもましです。それは否定しません。ただ、メールの中身は検証されていないし、構造化された記録でもないし、受け取った人が実際のシステムに手で入力し直しています。待ち行列も、入力ミスも、遅延も、全部そのまま残っている。見えない場所に移動しただけです。
企業でも常に見る型です。プロセスが「デジタル化した」と呼ばれる根拠が、運搬手段が変わったことだけ。フォームが PDF になった。PDF がメールで届く。誰かが開いてシステムに入力する。プロジェクトは完了として報告される。
判定方法は簡単です。データを受け取るシステムの名前を言えるか。答えが「受信箱」なら、まだ終わっていません。
ついでに、指標の話
この調査には、指標の設計そのものについての教訓も入っています。
7万5,085種類の手続のうち、年間件数が100万件以上のものは217種類。全体の0.3%です。その217種類が、日本で1年間に行われる行政手続の95.6%を占めています。総数はおよそ43億件です。
逆に、5万5,343種類、全体の4分の3近くが、年間件数ゼロまたは不明でした。
「手続の半分がオンライン化された」という文は、どちらの半分か、と聞かれるまでしか持ちません。手続の種類数を分母にすると、年に数十億件の税関申告と、年に2件の許認可が、同じ「1」として数えられます。
自社の数字も同じです。「フォームの8割をリニューアルした」ではなく、「送信件数の何%が改善後のフォームを通ったか」で見てください。機能ではなく、量で数える。
今日できる4つの確認
- 決済まで含めてフローを通す。 自分のクレジットカードで、最後まで。途中で別のシステムやメールに飛ぶ箇所があれば、そこが実質的な終点です。
- 要求している添付書類を全部書き出す。 それぞれについて、なぜ必要か、自社ですでに持っていないか、紙の原本でなければならない理由は何か、を書く。理由を書けないものは外せます。
- 各項目のデータの行き先を言えるか確認する。 言えない項目は、誰かが手で転記しています。
- 離脱をステップ別に、件数の多い順に見る。 種類数ではなく件数です。4ステップのうち1つで7割が落ちているなら、次の予算には行き先があり、会議で議論することは何も残っていません。
出典
- デジタル庁「行政手続等の調査結果概要」令和7年7月22日。対象は国の行政機関26府省等が所管する法令に規定された全手続、7万5,085種類、年間件数およそ43億件。手数料納付は7ページ、添付書類は8・9ページ、府省システムとメールの比率は5ページ、件数分布は4ページ。