既存アプリの UX 改善は、どこから手をつけるか
全面リニューアルは高く、失敗すると戻せません。数字が出ている場所から直す方法と、リニューアルを選ぶべき条件を分けて考えます。
「アプリを作り直したい」という相談は多いのですが、話を聞くと、作り直す必要がないことがほとんどです。
問題が起きている場所は、たいてい限られています。そして全面リニューアルは、良くなる保証がないまま、今動いているものを一度壊す作業です。
まず、どこで失っているかを見る
改善の前に、数字で場所を特定してください。感覚ではなく場所です。
見るべきは三つです。
離脱している画面。どの画面で人が消えているか。ここが最も直接的です。
繰り返されている操作。同じ画面を何度も行き来している、同じボタンを連打している。これは何かが伝わっていない証拠です。
問い合わせの内容。サポートに来る質問は、そのままインターフェースの失敗リストです。同じ質問が三回来ているなら、その画面が答えていないということです。
三つ目は、ツールが要らないうえに一番具体的です。過去半年の問い合わせを分類するだけで、直すべき箇所がかなり見えます。
最初に直すべき四箇所
多くのプロダクトで共通して効くのは、この四つです。
最初の三十秒。新規の人が最初に見る画面。ここは既存の利用者には見えないので、社内で誰も見ていません。自分のアカウントではなく、新規登録して確認してください。
空の状態。データがない状態の画面。これも社内では見えません。使い始めた人全員が通る画面なのに、設計されていないことが非常に多いです。
エラーの文言。何が起きたか、作ったものは無事か、次に何をすればいいか。この三つが書かれていないエラーは、その時点で利用者を止めています。
待ち時間の見せ方。処理そのものを速くしなくても、押した瞬間に反応があるだけで体感はかなり変わります。
この四つは、いずれも作り直しではなく部分修正でできます。そして効果が出るまでが速い。
リニューアルを選ぶべき条件
部分修正で対応できない場合もあります。次のどれかに当てはまるなら、作り直しを検討する価値があります。
情報の構造そのものが間違っている。どこに何があるかが利用者の頭の中と違う場合、個別の画面を直しても解決しません。
技術的に修正できない。古い作りで、一箇所直すと別の場所が壊れる状態。これは UX の問題ではなく、負債の問題です。
対象の利用者が変わった。作った当時と、今の主な利用者が違う。この場合、前提が変わっているので部分修正では追いつきません。
逆に、「見た目が古い」だけの理由でリニューアルすると、たいてい数字は良くなりません。見た目は理由として弱いです。
作り直す場合の進め方
一度に全部を置き換えないでください。
一番良いのは、一つの機能を新しい作りで出して、既存と並行させることです。数字を比べて、良ければ次に進む。悪ければ戻せる。
全面切り替えは、悪くなったときに戻す手段がありません。そして新しいものが最初から良いことは、まずありません。
発注する場合に決めておくこと
外部に依頼するなら、成果物を「デザイン一式」ではなく「特定の数字を動かすこと」にしてください。
その数字が動いたかどうかは、公開後にしかわかりません。だから、公開後に測る期間と、その結果で何をするかを、契約の段階で決めておく必要があります。
ここを決めていない改善案件は、公開して終わりになります。そして次の相談は、また一年後に「作り直したい」から始まります。
一番安く効く方法
最後に、費用がかからず効果が大きい方法を一つ。
実際の利用者五人に、目の前でアプリを使ってもらってください。話しかけず、助けず、ただ見る。何秒で目的の操作にたどり着くかを数える。
五人で十分です。同じ場所で三人が詰まったら、それが直すべき場所です。この方法で見つかる問題は、たいてい社内の誰も気づいていないもので、そして直すのは簡単です。