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訪日客向けのサービスは、アプリを入れてもらう前提をやめるところから

2025年の訪日外客数は4,268万人。旅行者の多くは、言葉の壁を自分のスマートフォンの翻訳ツールで越えています。飲食、小売、観光の会社が訪日客向けのサービスを作るとき、専用アプリより先に決めること、どの言語から始めるかを、JNTOと観光庁の数字から考えます。

訪日客向けに専用のアプリを作りたい、という相談をときどき受けます。予約、注文、クーポン、多言語の案内。機能を並べると、たしかにアプリらしく見えます。

ただ、旅行者の立場で考えると、話が変わります。限られた日数で日本を回っている人が、一軒の店や一つの施設のためにアプリをダウンロードし、アカウントまで作るかというと、私の見てきた範囲では、ほとんどの人はしません。

海外向けと日本向けの両方でプロダクトを作ってきた経験から、訪日客向けのサービスで最初に決めておきたいことを書きます。

数字で見る訪日客

日本政府観光局(JNTO)の2025年の確定値では、訪日外客数は42,683,301人で、前年から15.8%増えました。上位の国と地域は次のとおりです。

国・地域2025年
韓国9,459,711人
中国9,095,931人
台湾6,763,424人
米国3,306,820人
香港2,517,399人

この表で見落とされやすいのが、中国語の扱いです。台湾、香港、マカオを足すと約940万人で、中国本土の約910万人を上回ります。台湾と香港の人が普段読むのは繁体字です。「中国語版を作りました」と言うとき、それが簡体字だけなら、中国語を読む旅行者の半分ほどにしか届いていないことになります。

旅行者は、自分の道具で解決している

観光庁が2025年11月から2026年1月にかけて、五つの空港で4,110人に聞いた受入環境の調査があります。

旅行中に困ったこととして、「施設等のスタッフとのコミュニケーション」を挙げた人は15.4%、「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」は10.9%でした。「困ったことはなかった」は43.7%です。

私が注目しているのは、困ったときにどう対応したかです。スタッフとのコミュニケーションで困った人の68%、多言語表示で困った人の57%が、ICTツールを使って対応しています。つまり、旅行者の多くは翻訳アプリやカメラ翻訳を自分のスマートフォンに入れて来ています。

ここから言えるのは、自社でアプリを用意するより、旅行者がすでに持っている道具で読めるようにするほうが、届く範囲が広いということです。

翻訳ツールで読める作りにする

具体的には、次のようなことです。

  • メニュー、料金、注意事項を、画像ではなくテキストで載せる。画像の文字も読めるツールはありますが、テキストのほうがブラウザの翻訳機能できれいに訳されます。
  • PDFのメニューをスキャンして置くのをやめる。スマートフォンで拡大しながら読むことになり、翻訳もしにくくなります。
  • 価格は税込みかどうかを含めて、数字とテキストで書く。
  • アレルギーや宗教上の食材の情報は、写真の中の小さな文字にしない。

どれも、作り直しというより、いまあるページの直し方の話です。

アプリより、QRコードとWebページ

予約や注文の仕組みを作るなら、私はまずWebページで作ることを勧めます。テーブルや入口のQRコードを読むと、ログインなしでその場のページが開く。言語はブラウザの設定から自動で選び、画面の上で切り替えられるようにする。

ここでよく問題になるのが、本人確認です。日本の携帯電話番号にSMSを送る認証は、日本の番号を持たない旅行者には使えません。メールアドレスか、Apple や Google のアカウントでのログインを用意するか、そもそもログインを求めない作りにしておくのが安全です。

入力フォームも同じです。フリガナ、郵便番号、都道府県が必須になっていると、海外の住所の人は先に進めません。日本向けのフォームをそのまま翻訳すると、ほぼ確実にここで止まります。

言語は、自社のデータで順番を決める

全国の数字は上の表のとおりですが、自社の客層が同じとは限りません。観光庁の調査でも、多言語表示で困った場所は都市部と地方部で違っていました。

順番を決めるときは、まず手元のデータを見ます。サイトのアクセス解析で、閲覧者のブラウザの言語設定。予約サイト経由なら、予約者の国籍。この二つがあれば、最初の一つか二つの言語はほぼ決まります。

全部の言語を一度に揃える必要はありません。英語と、データで多かった一言語から始め、問い合わせや予約の数を見ながら足していけば十分です。

言語の切り替えは、国旗を使わない

言語の切り替えに国旗のアイコンを使っているサイトをよく見ます。これは避けたほうがいいと考えています。国旗は国を表すもので、言語を表すものではないからです。英語を読む人は米国にも豪州にも東南アジアにもいますし、繁体字を読む人は台湾にも香港にもいます。

切り替えは「English」「한국어」「繁體中文」「简体中文」のように、それぞれの言語で書いた言語名で並べます。日本語で「韓国語」と書いても、韓国から来た人には読めません。

もう一つは、言語ごとにページのURLを分けておくことです。同じURLの中で表示だけを切り替える作りだと、検索エンジンが各言語のページを別々に扱えず、海外から検索した人に見つけてもらいにくくなります。一度選んだ言語を次のページでも覚えておくことも、地味ですが効きます。

機械翻訳で足りる部分と、人が見る部分

機械翻訳は、ここ数年でかなり実用的になったと感じています。メニューの説明や施設の案内なら、機械翻訳で出して、気になるところだけ直せば十分なことが多いです。

ただし、人が確認したほうがいい部分があります。キャンセルと返金の条件、アレルギーの表示、年齢や利用の制限です。ここで訳が曖昧だと、あとで揉めたときに「書いてあった」と言えません。翻訳の予算は、ここに集中させるのが効率のいい使い方です。

支払いの画面も確認する

同じ観光庁の調査で、「クレジット/デビットカードの利用」で困った人は10.7%、場所は飲食店が32%でした。

Webで予約や事前決済を受けるなら、海外発行のカードが通るか、本人認証の画面で止まらないかを、実際に海外のカードで試しておくことを勧めます。日本のカードで動作確認しただけでは、ここは見えません。

最初の打ち合わせで

訪日客向けのサービスを準備している場合、最初の打ち合わせでは三つを教えてください。対象になる店舗や施設と、その場所。いまの予約や注文の流れ。そして、手元にある客層のデータ(アクセス解析、予約者の国籍など)です。

データが少なくても構いません。どこを見れば判断できるかを決めるところから始められます。

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